海辺のストレンジャー
A real story from our community

失恋の傷を癒すため、私は九州の離島・青島にやって来た。都会の喧騒から逃れ、波の音だけが響くこの地で、心の整理をつけたかった。
島の宿にチェックインすると、窓から見える海はエメラルドグリーンに輝いていた。東京では見られないような美しい景色。でも心の痛みは景色だけでは癒せなかった。
三日目の夕暮れ、浜辺で地引き網を引く漁師たちに出会った。その中でひときわ目立ったのが、小麦色の肌に白い歯を光らせる拓海だった。地元で三代続く漁師の家系だという。
「手伝うよ」
突然の申し出に彼は驚いたが、「そこのロープを引いて」と笑顔で応じた。網には小魚が躍り、潮風が頬を撫でる。初めての漁作業に夢中になっていると、心の痛みも少し和らいだ。
それから毎日、私は浜辺に通った。拓海は海の生き物や星座を教えてくれた。ある満月の夜、彼が語ったのは「人魚と漁師」の伝説だった。
「この島の漁師が嵐で遭難し、人魚に助けられた。恋に落ちたが、人魚は海に戻らなければならなかった...」
「悲しいお話ですね」
「でもね」彼の手が私の手の上に重なった。「月が満る夜、彼女は必ず浜辺に現れるという」
潮風が髪を揺らし、波打ち際で彼の唇が私の唇を探した。潮の香りと彼の太陽の匂いが混ざり合う。人魚伝説のように、この恋にも儚さを感じた。
「拓海さん、私...島を離れなければならないんです」
「わかっているよ。それでも今夜はここにいてほしい」
彼の言葉に心が溶けた。私たちは砂浜に横たわり、満天の星空を見上げた。彼の腕の中で、私は初めて安心を感じた。
翌朝、私は島を離れた。でも心は拓海と共に青島に残っていた。東京に戻っても、私は毎晩窓から月を見上げる。満月の夜には、必ず青島の浜辺を思い出す。あの一夜が私に教えてくれた——本当の愛は時間や距離では消えない、と




