上司との出張、二人だけの夜

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上司との出張、二人だけの夜

営業部の高見部長は、社内で氷の男と呼ばれている。三十代後半という若さで部長になった切れ者。常に冷静で、私のような若手社員には、ほとんど笑顔を見せたことがない。そんな彼と、二人きりで一週間の海外出張。私の緊張は、最高潮に達していた。

出張中、私は必死で彼についていった。完璧なプレゼンテーション、タフな交渉。彼の仕事ぶりは、噂通り、いや、それ以上だった。私は、改めて彼に畏敬の念を抱いた。


最終日、全ての仕事を終え、私たちは空港に向かった。しかし、悪天候のため、私たちの乗るはずだった飛行機は欠航。次の便は、翌日の朝だという。私たちは、急遽、空港近くのホテルにもう一泊することになった。

「部屋は、一部屋しか取れなかった」

フロントで、彼は気まずそうに言った。ツインルームが空いていなかったらしい。キングサイズのベッドが一つだけある、デラックスルーム。断るという選択肢は、私にはなかった。


部屋に入ると、重い沈黙が流れた。私は、バスルームに駆け込み、熱いシャワーを浴びた。少しでも、この気まずさを紛らわせたかった。バスルームから出ると、彼は窓の外の夜景を見ていた。その背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。

「…飲むか?」

彼が、部屋のミニバーを指差して言った。私は頷いた。シラフで、この状況を乗り切る自信はなかった。


私たちは、ベッドに腰掛け、グラスを傾けた。アルコールが回るにつれて、私たちの会話は、少しずつ滑らかになっていった。仕事の話、家族の話。そして、彼の意外な一面を知った。彼は、本当は猫が好きで、家で二匹も飼っているらしい。氷の男の、思わぬギャップ。私は、彼を少しだけ、身近に感じた。

「部長は、どうしてそんなに仕事ができるんですか」

「…怖いからだよ。期待を裏切るのが」

彼の弱音を、初めて聞いた。彼は、氷の男を演じているだけなのかもしれない。その孤独さに、私は胸が締め付けられた。


話が途切れた瞬間、彼が私の手を握った。驚いて彼を見ると、その瞳は、熱を帯びて、私をじっと見つめていた。

「君は、頑張りすぎだ。もっと、肩の力を抜け」

そう言って、彼は私の髪を優しく撫でた。その手つきは、上司のものではなかった。一人の男の、手つきだった。私の理性の糸が、ぷつりと切れた。

どちらからともなく、私たちは唇を重ねた。彼のキスは、彼の仕事ぶりと同じように、丁寧で、でも情熱的だった。彼の指が、私のブラウスのボタンを一つずつ外していく。私は、抵抗しなかった。いや、できなかった。


ベッドに押し倒され、彼のたくましい体が、私の上に覆いかぶさる。会社では決して見ることのでない、彼の欲望に満ちた表情。それは、私を恐怖させるどころか、興奮させた。

彼が、私の中に入ってきた時、私は甘い声を上げた。私たちは、互いの名前を呼び合い、何度も体を重ねた。言葉はいらなかった。肌と肌で、互いの孤独を、渇きを、埋め合っているようだった。


翌朝、私は彼の腕の中で目覚めた。窓の外は、嘘のような快晴だった。隣で眠る彼の寝顔は、とても無防備で、愛おしかった。

帰りの飛行機の中、私たちは一言も話さなかった。でも、気まずさはなかった。共有した秘密が、私たちの間に、新しい絆を作ったようだった。

明日から、私たちはまた、上司と部下に戻る。氷の男と、若手社員に。でも、もう以前と同じではない。私たちは、互いの素顔を知ってしまった。この秘密の関係が、私たちをどこへ導くのか、まだ分からない。でも、今は、このスリルと興奮に、身を委ねていたい。そう思った

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