雨の日のカフェ、運命の出会い
A real story from our community
三年の関係が終わった日、東京は冷たい雨に見舞われた。傘も持たず街を彷徨い、ずぶ濡れで見つけたのは路地裏の小さなカフェ「Café Lumière」。光の名に導かれるように入った。
店内は珈琲の香りと静かなクラシックに包まれていた。客は私ともう一人だけ。窓際でスケッチブックに向かう男性の向かいに、自然と席を取った。
カフェオレの温もりで凍えた心がほぐれかけた時、彼が顔を上げた。目が合い慌てて視線をそらすと、落ち着いた声が響いた。
「随分と激しい雨ですね」
「ええ」
「この雨が何か嫌なものを洗い流してくれればいいのですが」
その言葉に心の内を見透かされた気がし、涙が止まらなくなった。彼は静かに見守り、私が落ち着いた頃にスケッチブックを差し出した。
雨に濡れた紫陽花が淡い色彩で描かれ、優しくも寂しい雰囲気を漂わせていた。
「美しい……」「ありがとう。雨の日は世界が違って見えるから好きなんです」
彼は湊と名乗るイラストレーター。それから雨の日ごとにカフェで会うようになった。失恋の痛み、彼の夢——静かな珈琲の時間に心を開いていった。
彼は無理に励ますでもなく、ただ隣で珈琲を飲むだけ。その穏やかな存在が傷を癒していった。
ある雨の日、彼が提案した。
「晴れた日に海を見に行きませんか」
雨から晴れへ——初めての約束に肯んだ。
約束の日、海辺を歩く。きらめく水面、彼の屈託ない笑顔。いつの間にか私の心も晴れ渡っていた。
帰り道、彼がそっと私の手を握った。
「雨の日も晴れの日も、あなたのことが好きです」
その告白で心が温かく満たされた。失恋の痛みは完全には消えないが、この人となら乗り越えられる気がした。
潮風を背にした優しい口づけ——新たな恋の始まりを感じた。雨のカフェで出会った小さな奇跡は、人生に再び光を灯してくれた運命の出会いだった
