夜行列車の偶然の同室

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夜行列車の偶然の同室

私、山田桜子は、24歳のフリーライター。今日は、北海道の取材から帰る途中だった。夜行列車の個室寝台。窓の外を流れる闇と、時折見える街の灯りが、なんだか切なかった。

「あの…すみません」

ドアを開けた瞬間、私は凍りついた。部屋には、既に荷物が置かれていた。同じ部屋に、誰かが来るはずだった。

「おっ、相乗りか」

振り返ると、そこには見慣れない男性が立っていた。年齢は30代前半、少し野暮ったい感じの人だった。

「あ、はい…よろしくお願いします」

私は、恐る恐る挨拶した。夜行列車で、見知らぬ男性と同室だなんて、最悪な偶然だ。


「俺は佐藤。東京の商社勤めだ」

「山田桜子です。フリーライターをしています」

簡単な自己紹介を交わした後、私たちはそれぞれのベッドに就いた。でも、眠れるはずもない。緊張で、体が硬くなっていた。

「君も、東京まで?」

「はい」

「仕事で北海道へ?」

「ええ、取材で」

会話は、そこまでだった。でも、彼は意外と紳士的で、私に気を遣ってくれているのがわかった。


列車が揺れるたびに、私たちの距離は縮まっていった。最初は、固い会話だった。でも、だんだんと、本音が出てくる。

「実は、俺、彼女に振られたばかりでさ」

突然、彼はそう言った。私は、どう反応していいかわからなかった。

「ごめん、変なこと言って」

「いえ…私も、実は彼氏と別れて、すぐなんです」

私たちは、同じ立場だった。だから、話が通じた。

「人生、うまくいかないもんだよな」

「ええ…でも、だからこそ、頑張れるのかも」


夜が更けていく。私たちは、仕事のこと、夢のこと、そして、愛のことについて語り合った。

「桜子さんは、どんな恋が好き?」

突然、彼はそう聞いた。私は、少し戸惑った。

「そうね…優しい恋がいいわ」

「優しい、か」

「激しい恋も、素敵よ。でも、最後は優しさが残っている恋が、一番だと思う」

彼は、私の言葉を真剣に聞いていた。そして、小さく頷いた。

「そうだな。俺も、そんな恋がしたい」


窓の外は、もう真っ暗だった。でも、私たちの心は、少しずつ明るくなっていく。

「桜子さん」

「なに?」

「ありがとう。話せて、すっきりした」

「私もよ。佐藤さんに会えて、良かった」

私たちは、自然に手をつないでいた。でも、それ以上のことは、しなかった。

「明日の朝、着いたら…」

「うん?」

「また、会えるかな?」

私は、小さく頷いた。別に、恋に落ちたわけじゃない。でも、この人とは、もう一度会いたいと思った。


朝、札幌駅に着いた。私たちは、それぞれの荷物を持って、プラットホームに降り立った。

「じゃあ、桜子さん」

「佐藤さん」

私たちは、名刺を交換した。そして、軽く握手。

「連絡してくれるよな?」

「ええ、あなたもね」


その後、私たちは何度か会った。最初は、お茶を飲むだけ。でも、だんだんと、映画を見たり、食事をしたり。

「桜子さん、実は…」

三ヶ月後、彼は私に告白した。

「俺、桜子さんのことが、好きになった」

私は、驚いた。でも、嬉しかった。

「私も…佐藤さんのことが、好きよ」


私たちは、付き合い始めた。最初は、ゆっくりと。でも、確実に、愛は深まっていった。

「あの夜行列車で、君と出会えて、本当に良かった」

「私もよ。あの時、あなたと同室で、運命だったと思う」


一年後、私たちは結婚した。式では、あの夜行列車のことを、みんなに話した。

「偶然の同室から、恋が始まったんです」

みんなは、微笑ましそうに聞いてくれた。


今でも、私たちは時々、夜行列車に乗る。もちろん、個室寝台を予約して。

「懐かしいね」

「うん、あの時のことが、昨日のよう」

私たちは、窓の外を流れる景色を見ながら、手をつないでいる。

『人生の旅路で、最も大切な出会いが、偶然の中にあった。それが、私たちの恋の始まり』

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