仮面の下の素顔
A real story from our community

友人に誘われ、私は豪華客船で開かれる仮面舞踏会に参加した。日常から離れた、一夜限りの夢の世界。私も、アンティークショップで見つけた、黒い鳥の羽飾りがつけた仮面をつけて、その非日常に身を投じた。
船内は、着飾った男女で溢れかえっていた。誰もが仮面をつけ、素性を隠している。その匿名性が、人々を大胆にさせていた。私も、シャンパンの勢いを借りて、何人かの男性とダンスを踊った。
そんな時、一人の男性に声をかけられた。彼は、シンプルな黒い仮面をつけていたが、その立ち姿だけで、他の男たちとは違う、圧倒的な存在感を放っていた。
「お嬢さん、一曲、私と踊っていただけませんか?」
彼の声は、低く、そして甘く、私の鼓膜を震わせた。私たちは、ワルツに合わせて、ゆっくりと体を揺らし始めた。彼のリードは完璧で、私はまるで羽のように軽く、彼の腕の中で踊ることができた。
「あなたの瞳は、仮面をつけていても、とても魅力的だ」
彼の囁きに、私の頬が熱くなる。
私たちは、ダンスを終えた後も、デッキで話を続けた。互いに名前も、職業も明かさない。ただ、感じたままに、心の内を語り合った。彼は、私の話に静かに耳を傾け、そして、的確な言葉で私の心を解きほぐしてくれた。
「あなたの仮面の下の素顔は、きっと、もっと美しいのでしょうね」
彼が、そっと私の仮面に手をかけた。私は、息を飲んだ。彼の仮面の下も、私は知らない。でも、不思議と、彼になら素顔を見せてもいいと思った。
彼が私の仮面を外した瞬間、彼は私の唇を奪った。それは、とても情熱的で、長いキスだった。潮風と、彼の微かなコロンの香りが、私の理性を麻痺させていく。
「私の部屋へ、来ませんか?」
彼の誘いを、私は断ることができなかった。私たちは、誰にも気づかれれないように、船室へと向かった。
彼の部屋は、船の最上階にあるスイートルームだった。窓からは、月明かりに照らされた、どこまでも続く海が見えた。
部屋に入ると、彼はまず、自分の仮面を外した。現れた素顔は、私が想像していたよりもずっと若く、そして、整っていた。しかし、その瞳には、年齢以上の深みと、どこか寂しさの色が浮かんでいた。
「今夜は、互いの名前も、過去も、未来も忘れよう。ただ、今この瞬間の、男と女として、求め合いたい」
彼はそう言うと、私をベッドに優しく押し倒した。
彼の指が、私のドレスの背中のジッパーをゆっくりと下ろしていく。肌が空気に触れるたびに、私の体は甘く疼いた。彼の愛撫は、とても丁寧で、私の体の全てを慈しむかのようだった。彼は、私がどこを触れられると喜ぶのか、全てを知っているかのようだった。
「あ…ん…そこは…」 「ここが、好きなんだろう?」
彼は、私の反応を楽しみながら、私を快感の淵へと追い詰めていく。
そして、ついに、彼の熱いものが、私の中にゆっくりと入ってきた。私たちは、深く、そして一つになった。彼の動きに合わせて、窓の外の月も、まるで私たちを見守るかのように、優しく輝いていた。
私たちは、夜が明けるまで、何度も体を重ねた。互いの素性も知らない。でも、だからこそ、私たちは、純粋に、体と魂で繋がることができたのかもしれない。
翌朝、私が目を覚ますと、隣に彼の姿はなかった。テーブルの上に、一枚のカードと、一輪の赤い薔薇が置かれていただけだった。カードには、ただ一言、こう書かれていた。
『美しい夜を、ありがとう』
私は、彼の名前も、連絡先も知らない。でも、それでいい。あの夜のことは、私だけの、甘く、そして切ない秘密。仮面の下で交わした、あの情熱的なキスと、彼の腕の温もりを、私は生涯、忘れることはないだろう




