深夜図書館の秘密
A real story from our community

大学図書館の夜間アルバイトが唯一の息抜きだった。哲学科の大学院生・佐藤亮介先輩は、毎晩同じ席で哲学書と向き合っていた。彼の真剣な横顔に、いつしか視線を奪われるようになっていた。
ある雨の夜、閉館時間近くに突然の停電が起こった。暗闇の中で本棚に躓き、積み上げた本が雪崩のように崩れ落ちた。足首を挫いた私はその場にうずくまった。
「大丈夫ですか!」
懐中電灯の明かりと共に駆けつけたのが亮介先輩だった。彼の腕に支えられ立ち上がると、松ヤニの香りがした。司書たちが復旧作業をしている間、私たちは哲学書の森に取り残された。
「プラトンの『饗宴』を読んだことはありますか?愛についての対話篇です」
「いえ、まだです」
「それでは...」
彼は暗闇で朗読を始めた。ソクラテスが語る愛の本質について。声の響きに包まれ、痛みも忘れて聞き入った。やがて停電は直ったが、私たちは気づかなかった。
「君の考えにいつも刺激をもらっています。先週のレファレンスデスクでの問い合わせ対応、見事でした」
「私こそ、先輩の...」
言葉が続かなくなった時、彼の指が私の頬に触れた。古代哲学の書架の陰で、私たちは自然に唇を重ねた。彼のキスは深く思索的で、まるで哲学の対話の続きのようだった。
閉館後も私たちは残った。書庫の奥で彼に抱かれながら、本の紙の匂いと彼の温もりに包まれた。知性と情熱が交わる瞬間、私は図書館という空間がこれほど官能的になるとは思わなかった。
「君は私のアガペーとエロスだ」
彼の囁きに震えた。この秘密の関係が学問への情熱をさらに燃え上がらせた。
今では毎週水曜の夜が待ち遠しい。閉館後の図書館で、私たちだけが知る哲学的な愛の形を探求している




