雨宿りのキス
A real story from our community
突然の夕立に、私は路地裏の軒先で雨宿りしていた。午後は晴れていたのに、帰宅途中で大粒の雨が降り出した。ビルとビルの間に挟まれた細い路地は雨宿りには最適だったが、暗くなり始めた空と冷たい風が不安を呼び起こした。
傘も持たずにいた私は、通りかかる人々を羨ましそうに見つめていた。そんな時、一人の男性が私の前で足を止めた。
「お宅までお送りしましょうか？」
彼は優しい笑顔で傘を差し出した。紺色のスーツに身を包んだビジネスマンのようだった。私は少し戸惑ったが、彼の誠実そうな眼差しに安心し、お礼を言って傘に入った。
傘の中の狭い空間で、彼の体温と雨の匂いが混ざり合う。歩きながら、なぜか子供時代の思い出話が自然と湧き出た。
「私、子供の頃こういう夕立が大好きだったんです。雨宿りしていると、誰かが助けてくれるって信じていて」
「それは素敵な思い出ですね。私は雨が止むのを待つ間、傘の骨を数えるのが習慣でした」
彼の意外な一面に笑いが漏れた。雨音と私たちの笑い声が不思議なハーモニーを奏でる。
私のアパートの前まで来た時、雨は小降りになっていた。
「本当にありがとうございました。傘は...」
「また返す口実が欲しいんです」
彼は突然真剣な眼差しでそう言った。次の瞬間、彼の手が私の頬に触れた。冷たい雨の中、彼の指の温もりだけが鮮明に感じられた。
「また会えますか？」
その問いかけに答えるよりも早く、私たちの唇が重なった。雨粒が傘を打つ音が遠のき、彼の優しい口づけだけが世界の全てになった。
雨宿りがきっかけで始まった恋。今ではあの雨の日が、私の人生で最も幸せな偶然だったと思っている
